「私らしい暮らし」を一緒に探す。
就労準備支援が目指すもの

2026年10月、KEIPEは生活に困窮する当事者の就労準備のために、一般社団法人リレイト、社会福祉法人あすなろの会、NPO法人南風会、ヴィジョナリーパワー株式会社とともに、「ひきこもり・生活困窮者等就労支援ネットワーク」を設立。

このネットワークは、山梨県、福祉事業所等の行政、そして働き先になる地域企業が参画し、それぞれの立場の情報共有をしながら連帯し、当事者が社会参画をするステップをしっかりと後押しするために設立されました。



このネットワークが担うのが「就労準備支援事業」。このKEIPEにとっても新しいチャレンジがどんな事業なのか、そしてそこに関わる二人がどんな思いで日々向き合っているのかお話を聞きました。

話してくれたのは、この事業を長年見つめてきた石垣さんと、KEIPEの障害者就労継続支援A型事業所※(以下A型と表現)での経験を経て加わった下さん。二人の対話から見えてきたのは、制度の話にとどまらない、「人がその人らしく生きる」ことをめぐる、とても本質的な話でした。

就労準備支援って、何ですか?

下

すごく説明するのが難しいんです。いろんな課題があって、すぐに働くことが難しい方に向けて、就労するための準備を一緒にしていく事業になっています。生活困窮者自立支援法にもとづく事業で、対象は生活困窮の方や生活保護受給者。あと将来的に困窮になり得るということで、ひきこもりの方も対象になっています。

──これって全国に一定数あるものなんですか?

石垣

はい、一定数あります。ただ必要な人に届いているのかというとまだまだな部分も感じています。「自立相談支援」っていうのは法律に則って各自治体が絶対やらなきゃいけない相談窓口なんですが、就労準備支援は任意事業。自治体が必要と判断したらやる、というくくりになっているんですよ。

石垣

厚生労働省の手引書には収入要件とかいろいろ書いてあって、対象者をなかなか見出せないのかもしれません。だから「やりません」っていう判断をしている自治体もあるんですよね。

──見出せない、というのは?

石垣

自立相談支援の窓口へ相談に来る人って、実は高齢の方が多いんですよ。年金が少なくて困窮に陥る、というケースが多くて。なので、働ける年齢なのかどうかっていう話になったりもします。

下

なるほど。ひきこもりで10代・20代の方が就労への意欲を持てるようになるまでのステップ、みたいなイメージを持っていたんですけど、違う場合もあるんですね。

石垣

うん。ありがたいことに「就労準備支援の対象者がいます」っていう機関からの紹介が増えてはいますが、まだ届いてない方々がいると思っています。

── なるほど。対象者でここにたどり着けていない人は、どのぐらいいると思いますか?

石垣

難しいですね〜。
なんでこのネットワークに「ひきこもり」ってついているかというと、ひきこもり層はそもそもこういう場所にたどり着かないんですよ。自分から「ひきこもってて」って相談しに行かないですよね。

家にお金があるから、ひきこもれるという面もあって。親御さんからの相談が来るとしたら「親なき後どうしたらいいですか」という話になります。

準備支援を利用する要件には、「世帯収入・資産が一定以下であること」(就労支援の手引き(PDF)p.48参照)とあるけれど、世帯に収入があっても本人が経済的に自立できていない場合や、今後困窮するリスクのある場合など、柔軟に支援決定を出しますよ!としているんです。
実は、相当幅広く使ってもらえる制度設計なのですが、まだ市町村レベルまでその周知が至っていないんじゃないかな、と観察しています。

KEIPEがこのネットワークに加わった理由

──創業から、障がいのある方の雇用を作るA型の事業に取り組んできたKEIPEとして、このネットワークに関わることになった経緯や、担う役割についてどう思いますか?

下

経緯の部分の上流のところは正直詳しくは語れなくて……。ただA型に携わってきた私としては、KEIPEが“障がい”だけではない、いろんな働きづらさを抱えている方たちまで、もっと対象を広げていけるっていうところに、すごく意味があるなと感じています。

A型で培ってきた支援の引き出しを使いながら、診断を受けていない方でも、働きづらさ・生きづらさを抱えている方たちの力になれることがあるはずだと思っています。

── 下ちゃん自身がチャレンジしたのも、その辺りが理由だったんですか?

下

実は……手を挙げたというより、組織図を見た時に自分の名前がそこにあって。「なんだこれは」ってところから始まったんです(笑)。でも、すごく嬉しいなと思っていて。私自身、福祉のプロフェッショナルを目指して専門学校に通っていたりもするので、KEIPEだけじゃなく様々な事業所や機関と一緒になって地域のネットワークを作っていくことに関われるのは価値があるんじゃないか、と感じています。

このネットワークにいる方たちは本当にプロフェッショナルなんですが、私は何の資格も持っていない、準備支援事業って何?ってところから始まっていて。でも、だからこそ福祉とは違う視点で、今までにない動きが起こせるんじゃないか、若手としてそこも期待していただいているのかなとも感じています。

一人の方に対して、KEIPEだけでできることには限界があるって、A型の現場でずっと感じていたんです。でもこの事業では、フォーマル/インフォーマル※も含めた、対象の方の「その人らしい生き方・働き方」を支援できる。このネットワークではそんな地域の基盤を作っていける。そこにワクワクしています。

恩返しのタイミングでめぐってきたネットワーク

──石垣さんは、これまでどういう経緯でやってこられて、なぜKEIPEの事業にジョインされたんですか。

石垣

どこから話せばいいか……。私自身、サラリーマンを辞めた時に「働くってなんだろう」って考えて、産業カウンセラーとキャリアコンサルタントの資格を取りに行ったんです。自分自身が「なんで働くんだろう」を理解したくて。

そこから山梨県のジョブカフェでの勤務を経て、地域若者サポートステーションに誘われて。当時そこには、ひきこもりの方や障がいグレーゾーンの方もいたので、今までのキャリアコンサルタントの武器だけじゃ通用しなくて、家族支援やアサーティブトレーニング※など色々勉強しました。


そうしていたところに、私が住む地域の社会福祉法人が、障がいのある人とない人が共に学んで社会へ参加する「ブリッジスクール」という取り組みを始めたので、外部講師として手伝ってくれと声がかかったんです。話を聞きに行ったら、「YES AND…※」で話をする、相手を尊重するっていう態度に「福祉ってすごいな」と感動したんですよね。それまではガチガチの競争社会で働いていたので。
そこでプログラム作りから、実際の運営まで、月2回、土曜日に講師をしていました。

下

福祉との出会いがそこだったんですね。

石垣

そう。
そこから、2019年に北杜市が就労準備支援事業をやることになった時、手伝っていた法人に声がかかって事業運営がスタートしたんです。ただ、途中でその法人が「重度障害者支援に舵を切る」と決めて事業から手を引くことになりました。でも、当時5人も利用者がいて、私たちがやめてしまったら「この人たちどうするの」って。
北杜市は当時、社会資源も少なくて、他の施設への紹介もできなくて、どうしようって話になって。

そこで、「リレイト」という法人格を立ち上げて、5人の支援をそのまま引き継ぎました。私もこの事業を本業にして、目の前の5人の就労に向けて一緒に頑張った、という経緯です。

下

そこからこのネットワークを担うまでは、どう繋がっていくんですか?

石垣

5人全員が就職などで落ち着いたのが2022年。一旦もう責任は果たしたなと思ったんですけど、そのあとオンライン居場所事業をやったりして……でもだんだん自分のエネルギーが続かなくなってきて、一回休もうと思ったんです。代表理事を仲間に譲って、そこで1年間休みました。

そんなことをしていたら、また山梨県のこの事業がポンと出てきて、リレイトの代表理事を担ってくださった小泉さんに「力を貸してほしい」と言われて。それでこのネットワークの統括としてメンバーに加わることにしました。なぜかというと、私自身、恩返しをする時が来たな、と思ったからなんです。

今まで税金で講師として雇ってもらったり、利用者から教えられて私のスキルが身についたり、たくさん成長させてもらった。大変な時も、利用者がそっとコーヒーを入れてくれたりして、ものすごく支えられたんです。だから、このことは返すべきだと思ったんですよね。

下

なるほど。

石垣

リレイトでやっていた支援は、小さく早く、です。でも今回の県全域のネットワークは、広く遠くへ。それは私にないスキルなんですよ。個人事業主だから、自分のペースでコツコツやるのは得意だけど、こういう公共事業はチームでやらなきゃいけない。だから、自分の違う扉を開けてみようと思ってやってみることにしたんです。

「私らしい暮らし」を一緒に問うということ

下

支援の現場では全てのことが初めてで。今まではA型で、利用者と一緒に働きながら就労のスキルや社会的スキルを身につけていくことに伴走していたんですけど、それだけじゃなくて、もっと広い範囲で生活に関わる仕事です。

A型は「働く意欲がある」前提で来てくれる方が多いですけど、準備支援はそれだけじゃなくて、その方が地域で何かを発揮したいとか、「社会と繋がりたい」と思えるようになるにはどうしたらいいんだろう、みたいな根本的なところから、ご家族と一緒に試行錯誤しながら考えていく。正解がないんです。難しいけど、面白い。

支援のプログラムを組み立てるのも、今までA型では利益を出さなきゃとか、時給分働けるように支援しなきゃとか、そういうことにも頭を使ってました。今はそこから離れて、その方らしさをどう発揮できるかを中心に考えています。

支援のプログラムの計画も、私だけでやろうとしていたら、石垣さんに「利用者と一緒にやればいいじゃん」って言われてはっとしました。利用者の方と一緒に会議しながら作っていくのは、すごく新鮮でした。

石垣

私が支援でずっと大事にしているのは、支援する側とされる側を分けない、ということなんです。私たちが与える・受けるっていう風に分けちゃうと支援員が苦しくなる。垣根を越えて、人として対等。彼らが自分たちに必要なものを教えてくれる。私たちはそのお手伝いをしているに過ぎません。

その人の中に答えがあるっていうのが、ずっと私の貫いている支援観で。下ちゃんに「一緒にやればいいよ」って言ったのもそこが理由です。支援プログラムって、その人にとって何が「私らしい」のかを確かめるためのツールに過ぎない。結果として福祉サービスに行くかもしれないし、一般就労かもしれない。他にも選択肢はものすごく多いんです。

下

石垣さんが「その人の人生だから」っておっしゃっていたのを聞きながら、私たちがやっている支援は就労に繋げるためのものだと思われがちだけど、必ずしもそうじゃなくて、あくまで選択肢の一つなんだよな、って考えていました。
ただ、働くことの楽しさや素晴らしさも知っているから、情報として伝えたり、一緒に喜びを体感していくところには関わっていきたいな、と。

石垣

支援員側の固定観念が、本人の可能性を狭めてしまうこともあるんですよね。この人はこういう人だから、という一方的な判断をしてしまいがちで。でも、教育の場や、心を整える機会がこれまで与えられなかっただけの人がまだたくさんいる。そのことに気づいたのは、私にとってもすごく新鮮な経験でした。

これから届けたいこと

下

私がこれからチャレンジしたいのは、必要としている方たちに出会いに行くことです。ひきこもりの方は相談機関に辿り着けない。でも必要としている方は本当にたくさんいる。なので、当事者と接点のある関係機関の方たちにきちんとバトンをつなげてもらえるよう、私たちの思いを伝えに行くことをこれからも頑張っていきたいです。

石垣

私が願っているのは、就労準備支援事業がいずれ、自立相談支援のような「必須事業」になることです。対象が幅広いので、1社で抱えずに、他のサポートと連携しながら地域のセーフティネットとして機能させたい。※



それと、正直「就労準備支援」っていう名前自体が、この事業の本質を表せていない気がしていて。手引書には、就労だけを必ずしもゴールとしない、本人が今後の生活や働き方を具体的にイメージでき、それを実現していけるような支援を行うことが重要、とも書いてあるんです。国も少しずつ変わってきているので、名前もいずれ変わっていってほしいなと思っています。

この事業がもっと周知されて、「困っている人が私たちの地域にもいるかもしれない」というアンテナを、いろんな方に立ててもらえたら嬉しいです。

下

私も、少しでもこの事業に興味を持っていただいて、見学や体験を受け入れてもらえるような関係が広がっていったら嬉しいなと思っています。

もし今回の記事を読んで、もしかしたら利用対象の方が身近にいるかも?と思った方、利用を検討している方は、ぜひお問い合わせください。ご相談からでもお気軽にどうぞ。
無料相談会は11月、12月に企画中!お問い合わせいただければ、確定次第お知らせさせていただきます。
また、利用者の方の“出口”となりうる仕事・場を提供できるかもしれない、と感じてくださった企業・団体の方がいれば、ぜひお気軽にご連絡ください。見学や体験の受け入れなど、できることから一緒に考えていけたらと思っています。

【連絡先】
ひきこもり・生活困窮者等就労支援ネットワーク準備支援事業窓口
KEIPE株式会社
080-3844-2072(携帯)
junbi@keipe.co. jp
(平日 9:00〜17:00)


【参考リンク】
生活困窮者自立支援制度について(厚生労働省HPより)