
大久保洋文(おおくぼ ひろふみ)さん
3歳のときの高熱によって左耳の聴覚を失う。右耳は補聴器を使用し、会話がが可能。
松本いつき(まつもと いつき)さん
6歳のときに脳内出血で倒れ、左手足に麻痺が残る。また、知的障害と高次脳機能障害を併せ持ち、集中力の維持や難しい漢字の読み書きに困難を抱える。
KEIPEとの出会い―不安から始まった挑戦
―KEIPEは「障がいを特別なものにせず誰もがそこにいていい社会にする」をビジョンに、メンバーそれぞれの能力や個性を活かせる環境を目指していますよね。まずは、そんなKEIPEとお2人が出会えたきっかけについて伺いたいです!
改めてKEIPEとの出会いと、COLEREでホールスタッフに挑戦した動機を教えてください。
大久保
以前の仕事からブランクがあり、一般企業で働くためのトレーニングとコミュニケーションを取りたいという思いで、市役所の紹介でKEIPEに来ました。最初はパソコン業務をしていたのですが、昨年COLEREがオープンし、ホールスタッフとして働くことになりました。最初はコミュニケーションがちゃんと取れるか不安でいっぱいでしたね。
松本
私は前の仕事で、障がいによる集中力が続かないなどの問題から契約を続けられなくなってしまいました。そこでハローワークに相談に行った際に、KEIPEを知って。見学したときは、みんな頑張っている様子が伺えて「自分でもできるかも」とポジティブな印象を持ちました!
私も最初はパソコン業務でしたが、元々接客が好きだったので、COLEREでの仕事に挑戦しようと思いました。不安より楽しみの方が大きかったです。
大久保
以前は内向的で、自分の意見を溜め込んでしまうタイプでした。周りの人に話を聞いてもらえないことも多く、コミュニケーションを取るのが難しい環境だったんです。
でも、KEIPEに来てからは、みんなが丁寧に話を聞いてくれるので、安心感が持てるようになりました。お客様から「コーヒーが美味しい」と言ってもらえたり、やりがいを感じたりしているうちに、自分からやりたいことを発信できるほどに変わったと思います。
松本
私は「お客様対応はやっぱり楽しい」と心から感じられています。COLEREでお客様と接する中で、喋る仕事が自分に合っていると確認でき、すごく自信になりました。
また、みんなが優しく、人の温かさがある職場で働けることが何よりの喜びです。ちなみに、COLEREのホットドッグは絶品ですよ!ぜひ皆さんにも味わっていただきたいです。
松本さんおすすめのCOLEREのホットドック
「手話をもっと身近に」― 1人のスタッフから生まれた企画
―幼少期から難聴の障がいをお持ちの大久保さん。これまでの経験を通して生まれた「手話カフェ」の企画は、COLERE全体を巻き込む大きなイベントになりましたよね。
どうして手話カフェを開催しようと思ったのですか?
大久保
手話は、聴覚障害を持つ人にとって重要な伝達手段のひとつです。しかし、山梨県には聴覚障害を持つ人が約2,400人いるのに対して手話通訳者はたった30人ほど。この現状を知り、手話をもっと広めたいという思いがありました。
そこで9月23日の「手話言語の日」に先駆けて、手話の認知度をもっと上げたい、手話を身近に感じてほしいという気持ちを込めてイベントの企画をしました。
病院や市役所など、マスク越しだと聞き取れず困る場面が多かったのですが、手話が広まれば聴覚に障がいを持つ人がもっと生きやすくなります。手話は「とても楽しい、恥ずかしいことではない」ということをお客様に伝えたいと思ったんです。
―企画を提案したとき、スタッフはどんな反応だったんですか?
大久保
企画した内容を仲間に伝えると、みんな「協力するよ!」と言ってくれました。。KEIPEの「やりたい」という気持ちを大事にし「やってみようよ」というカルチャーがあるおかげだと思います。
8月に初めて開催し、今回が2回目です。
-素敵な企画なので、「今後も続けてほしい」とお客様からリクエストがあったとか。
大久保
そうですね。お客様の反応も良かったので、今後も継続して開催していきたいと思っています。継続することで、手話の楽しさが徐々に伝わっていくと良いなと思っています。
手話カフェの様子
「集客隊長」の活躍 ― 1週間で定員達成の集客力
―イベントの企画が通ったあとに必要なのは「お客様を集めること」ですね!松本さんは集客リーダーに任命されたとか。みんなから「集客隊長」と呼ばれていましたね!
松本
そうです。スタッフから「集客隊長」というあだ名をいただきました。(笑)
来店したお客様全員に直接声をかけ、チラシを見せながら勧誘しました。ありがたいことにすぐに満員になりました!
みんなからは「声が通る」「集客に向いている」と言われます。集客の声かけに不安を感じる人もいますが、私はこの仕事が大好きなので、楽しさが勝っていましたね。せっかく開催するのだから多くの方に手話を楽しんでほしくて。もちろん、中には忙しそうなお客様もいるので、しつこく言わず、興味があるお客様を見極めて声をかけるよう、スタッフみんなで共有しました。
―集客から開催当日まで、チームワークを発揮していたとか!
松本
集客はあっという間に終わってしまい、「もっとやりたかった」という寂しさの方が大きかったです(笑)。
イベント当日は、大久保さんが講師、私は通常業務でホールの接客を担当しました。イベント参加者だけでなく一般のお客様も多くかなり忙しかったのですが、お互いを信頼して集中できたので、チームワークはバッチリでした!
大久保
参加者を募集する前は、お客さんが来てくれるのか、2、3人だったらどうしようと不安でした。 準備は1人で大変でしたが、松本さんたちが頑張って集客してくれたおかげで、無事に開催できました。
県内外から参加者が集結! 想定を超えた反響と手応え
― 当日は11人が参加してくれましたね!お客様の反応はいかがでしたか?
大久保
反応が良かったのが一番大きかったんですけど、やっぱり「またやってみたい」「楽しかった」っていうのが一番印象に残っています。中には手話経験者の方もいて、皆さんの見込みが早かったですね。会話のコンテンツを増やすなど、内容をもっと充実させた方がいいかなと思いました。
特に印象的だったのは、千葉県から参加してくださったご家族です。娘さんが自分と同じ難聴で、手話ができるお母さんと一緒に参加してくださって。ネットで検索してイベントを知り、わざわざ山梨まで足を運んでくれたようです。
松本
声かけしてたときに「私、昔手話習ってたの。だからちょっと気になるわ」なんて、チラシ見ながら話してくれたお客様はすごく印象に残ってます。「忙しくて習う時間はないけれど手話には興味がある」みたいな感じで話を聞いてくれるお客様もいて、良かったなと思いました。
― 今回のイベントで、どのような変化や気づきがありましたか?
大久保
イベントでの変化は、より前向きになったってことですね。全体的に自分に自信が持てるようになりました。
松本
勧誘をしたことによって、やっぱり私はアナウンサーや接客など声が活きる仕事がしたいんだな、という夢の再確認ができました。すごい自信になりましたね。
「ボーダーをひかない社会」を目指す未来への想い
―COLEREから発信したいメッセージはありますか?またKEIPEで大切にしている「ボーダーをひかない社会」への思いをお願いします。
松本
「障がい者だからできないんじゃないか」「障がい者は健常者とは違う」と思われる社会をなくしたいです。
COLEREに来て、障がいの有無に関わらず、身持ちの良い接客や、おいしい料理が提供できるところを見てほしいですね。KEIPEの「障がいを特別なものにしない」という方針の通り、障がいがあってもできることはたくさんあることを私たちが体現したいんです。
大久保
私からは、同じ立場の人々へのメッセージとして伝えたいです。私は内向的でしたが、KEIPEに来て変わり、イベントの企画までできるようになりました。どんな障がいがあっても、「できるんだよ」ということを見てほしい。自信がない人も、どんなハンデがあってもどんどん社会に出ていってほしいと強く願っています。
今年(2025年)の11月にはデフリンピックも開催されます。手話を身近に感じる機会が増えることで、誰もが生きやすい社会になっていけば嬉しいです。
KEIPEでは、甲府市、笛吹市に就労継続支援A型サービスのオフィスを構え、約100名の障がいのある仲間とともに、自己実現と事業運営を行っています。
少しでもご興味がある方は、お気軽にお問い合わせください。