
「人」こそが成長の鍵 セムコとENERGIZEに学ぶ、KEIPEの人材育成
ー秘伝のたれプロジェクトを始めることになったきっかけや背景を教えていただけますか?
由梨子
はい。社員一人ひとりが自主的に経営に関わるブラジルの企業セムコ(Semco Partners)※1に、代表の赤池侑馬は以前から関心を持っていました。セムコ社の経営スタイルをもとに、企業の組織開発を支援しているのが株式会社ENERGIZE※2です。
※1 セムコ(Semco Partners):
ブラジルの企業で、リカルド・セムラー氏のリーダーシップのもと、従業員の自主自立性を重視したユニークな経営スタイルを確立。
従業員が給与や働き方を自由に決める制度など、従来のピラミッド型組織とは異なる柔軟な経営手法で注目されている。
※2 株式会社ENERGIZE:
企業の組織開発を支援する日本の会社。
ブラジルのセムコ社の経営哲学をもとにした「SEMCO STYLE」の導入支援を行い、自主性と柔軟性を重視した組織づくりをサポートしている。
クライアント企業の「働く」を最高にする支援を行い、戦略立案から実行支援までをフルオーダーメイドで提供。
由梨子
KEIPEは2025年9月に9期目を迎えます。創業当初は小さな会社で、人づくりに時間やコストなどの資源がなかなか割けない中、一人ひとりが全力で日々奮闘していました。
失敗や成功を繰り返しながら、社員や事業を増やしていき、ようやく人づくりに本腰を入れるフェーズになったと感じています。社員の成長を加速させる必要性から、今回のプロジェクトが始まりました。
ーKEIPEでは、どんな方向への「成長」を目指しているのでしょうか?
由梨子
赤池がよく話すのですが、「社会は誰がつくっているのか? 大人がつくっている。大人はどこにいるのか? 企業にいる。企業を動かしているのはリーダー。では、リーダーはどこから生まれるのか?」と考えていくと、やはり人づくりが大切、というところに行きつきます。
どんなにAIが発展しても、事業の中心にいるのは「人」です。想いを共有できる仲間を採用し、ともに育てていくことが重要だと考えています。
ー「たれ」という名前がついた経緯が面白いですね!
美映
冗談で「たれ」と呼んでいたら、本当に「たれ」になっちゃいました(笑)。
由梨子
最初は「研修を始めます」という話だったんです。「それってつまり、秘伝のたれですよね?」って冗談で言ったんです(笑)。
その後、資料のタイトルが「秘伝のたれ」になって出てきて、そこから正式に動き出しました。
友紀
その話知らなかった!(笑)
「秘伝のたれ」プロジェクトリーダー・平原由梨子(中央)
KEIPEのトップパフォーマーとは?ともに高みを目指す成長の好循環
ーKEIPEにおける「トップパフォーマー」とは、どんな方々なのでしょうか?
由梨子
就労継続支援A型事業所の利用者および就職希望者(雇用契約を結ぶ方々)に向けたリクルート領域のトップパフォーマーとして、KEIPE株式会社の就労支援を率いる事業部長・風間祥吾、そして、カスタマーサクセス分野のトップパフォーマーとして、KEIPEのグループ会社・KEIPEコネクト株式会社で、物流企業と就労支援事業所をマッチングする「ロジコネクト」を手がける事業部長・松原健太。このお二人から、今回「秘伝のたれ」を抽出させていただきました。
風間はKEIPE発足当初から最前線で活躍し、組織の成長をけん引してきた存在。松原は2021年にKEIPEコネクトに入社し、現在はロジコネクトの中核を担っています。
KEIPEコネクト株式会社の事業部長・松原健太
ー「秘伝のたれ」プロジェクトを通して、トップパフォーマー自身も気づいていなかった強みやスキルを発見した瞬間はありましたか?
友紀
松原は人とナチュラルにコミュニケーションを取りながら、しっかりした話ができるのがすごいんですよね。
でも本人に伝えたら「そうなの?」と驚いていました(笑)。関わる人を自分のファンにする力があるのに、当たり前すぎてそれが力だと気づいていなかったんですよね。
ー自然にできてしまうことほど、言語化が難しいですよね。
由梨子
そうなんです。
例えばプロ野球のトップ選手が、必ずしもよい監督やコーチになれるわけではないですよね。感覚的に身についたスキルを、他者にうまく伝えられるかはまた別の話で。
トップパフォーマーへの3ヶ月間のインタビューを通じて、言語化・見える化・仕組み化の重要性を強く感じました。
友紀
「これってどうしているんですか?」と松原さんに対応を聞いたとき、「こんな感じだよ」って返ってきたことが以前ありました。イメージを伝えてくれたのですが、私自身まだ経験が浅く、具体的な場面が思い描けずにいました。そこからどう動けばいいのか、自分の中で整理するのにも少し時間がかかっていたんです。
「秘伝のたれ」プロジェクトを通して、こうした点を明確に言語化してもらいました。「あ、こういうことだったんだ!」と、点と点がつながる瞬間がすごく面白かったですし、勉強になりました。
美映
風間がこれまで培ってきたものを、まさに「たれ」化していただいたなと思っています。一つひとつの「たれ」に関して、スキルやノウハウだけでなく、目的や意図も論理的にインプットしていただきました。
いまは風間の想いを受け継ぎ、背中を超えていくことが、風間に対する最大のリスペクトだと思っています。
KEIPE株式会社の事業運営グループを率いる事業部長・風間祥吾
ートップパフォーマーの方にとっても、トレーニーのみなさんの頑張りが、いい意味でのプレッシャーやモチベーションになりそうですね!
美映
そうなんです。いい会社、いいリーダー、そしていい事業をつくるためには、まず現場で働く私たち一人ひとりが成長していくことが大切だと思っています。
研修や「秘伝のたれ」は、会社からの“ギフト”だと私は捉えています。そのギフトをしっかりと受け取り、自分の中に落とし込んで成果につなげていくことが、個人の成長であり、会社全体の成長にもつながっていくんだと実感しています。
その中でさらに大切なのは「与えてもらう側」から「与える側」へと進化していくこと。これまではトップパフォーマーの背中を追う立場でしたが、いずれはその背中を追い越し、今度は私たちが誰かの成長を支える存在になる必要があると感じています。
その意識の循環が生まれていけば、会社全体もさらに良くなっていくはずです。
由梨子
上の方の仕事を減らすことも、私たちの貢献のひとつだと思っています。減らした結果余白ができて、さらに大きいお仕事をいただき、つながりが増え、活性化していく。
「たれ」を受け継いだ方も抱え込まずに、次の方に伝承していきます。
友紀
KEIPEコネクトは2024年から新体制になり、これまで松原が一貫して行ってきた業務を細分化することで、各自が自分の強みを最大限に活かせるようになりました。
これにより、チーム全体の連携もよりスムーズになり、松原自身はさらに上のフェーズに進むことができたんですよね。
私たちは受け継いだらアップグレードして、松原以上にできるようになる。新しい人に伝えて任せ、さらにアップグレードを加えていく。
こうした相乗効果を、「秘伝のたれ」プロジェクトの中で強く実感しました。
ー先日別のインタビューで赤池代表とお話ししたとき、「自由な時間って大事だよね!」と、新しい計画を楽しそうに話されていました。「秘伝のたれ」の成果がすでに出ていますね!
KEIPE株式会社代表・赤池侑馬
KEIPE流「秘伝のたれ」構築プロセス
ーでは「秘伝のたれ」づくりの具体的なプロセスを教えていただけますか?どのように「たれ化」しているのでしょうか?
由梨子
ENERGIZE様とKEIPEグループで契約し、共創型で進めています。トップパフォーマーのたれ化に3ヶ月、トレーニーへのたれ浸透に3ヶ月、全6ヵ月の工程です。
まずトップパフォーマーのたれ化のため、風間と松原に3ヶ月間ヒアリングを行いました。 リクルートやカスタマーサクセスの領域で、お二人がどのように、何を大切に、これまで仕事を進めてきたのか。そうしたことをひたすら言語化し、理想的な業務の進め方を見える化しました。
その間、「この資料をもっと活用したらどうでしょう?」「こちらのプロセスで進めていくとより効率的になりますよ」といった提案もENERGIZE様からあり、必要な資料があれば全て提供してくださいます。こうして「秘伝のたれ」が形になっていきました。
後半の3ヶ月はトレーニング期間です。前半の3ヶ月で作成した「秘伝のたれ」を、鍵となるトレーニーに浸透させていきます。
友紀
あと1回でトレーニングが終了になりますが、現在たれをバシャバシャ浴びてます(笑)。
由梨子
前半の3ヶ月で理想の形を作りますが、後半3ヶ月のトレーニングを進める中で「これは不要かもしれない」「資料のこの部分に修正が必要だな」といったことも出てくるんです。
そんなときもENERGIZE様が中心となり、トレーニーの様子や反応を見ながら、カスタマイズすべき点を調整します。
そして最終的に、KIEPEオリジナルのトレーニングメニューを納品していただきます。
ートレーニングメニュー、気になります!具体的に聞いてもいいですか?
友紀
はい。メインのトレーニングでは、事業所様に向けた対応方法について、松原のこれまでの経験や想いをレクチャーしていただき、それを自分自身のものとして落とし込むことを徹底的に行っていました。
具体的には、本番に近い環境を作り、リアルな状況でトップパフォーマーの松原やサポーターの方々からフィードバックをもらいながらトレーニングを重ね、最終的には自分の型を作れるようにしていました。
その中で、進捗管理表を一緒に作成し、目標達成に向けた具体的なアクションプランを決め、実践していくことができました。
このプロセスを通じて、目標に対する道筋を明確にし、実行に移す力を養うことができました。
由梨子
社内やチーム全体で、皆さんの進捗状況や「ここでちょっとつまずいているかも?」といった点が見える化されるようになりましたよね。
カスタマーサクセス領域のトレーニー・天野友紀
ートレーニングと並行してお仕事もされていると思いますが、友紀さんと美映さんは普段どのようなお仕事に携わっているのでしょうか?
友紀
私が所属するKEIPEコネクト株式会社では、人手不足に悩む物流企業様と、仕事を希望する障がい者支援事業所様とのマッチングを行っています。
企業様が、障がいを持つ方との接し方や対応に困っていらっしゃる際には、サポートも行っています。
また、支援事業所様が「企業にこうしてほしい」と思いながらも言いづらいことや、課題解決策が見えない場合には、アドバイスやサポートを提供しています。
私の役割は、働きたいと思う方が当たり前に働ける環境づくりをサポートすることです。事業所様と企業様、双方の視点から「こうなったらいいな!」という期待に対し、中立的な立場から客観的に見て、どちらにもとって「Win-Win」な方向へ動くようサポートしています。
美映
私は、KEIPEで働きたい方や地域で働きたいと考えている方に向けて、KEIPEを知ってもらい、働く場所を提供する業務を担当しています。
特に、障がいを持つ方々が直面する「働きづらさ」を解消し、KEIPEでの就労を実現することを目指しています。
ートレーニングはどんな雰囲気の中で進められているのでしょうか?
友紀
すごく和やかな雰囲気ですね。本来、ENERGIZE様とはBtoBの関係性になるはずなのに、実際には「人と人」の関係性を感じています。
例えば、トレーニングプログラムは1回2時間ほどですが、それ以外の時間でも「ロールプレイに自信がないです」と相談すると、一緒に練習していただけます。
笑いあり、涙あり、本気で向き合うひとつのチーム、という感覚がありますね。
― 美映さんのトレーニンググループはどんな様子ですか?
美映
私はリクルート領域で主となるトレーニーとして参加していますが、KEIPEの社員が数名「サポーター」として一緒に入っているんですね。
私がメインで学ぶ場ではありますが、サポーターの皆さんにもミッションや宿題があり、それに対するフィードバックを行う時間も設けています。皆も目標を立てて各チームにもたらす成果を一緒に追っています。
トレーニングを通してサポーターが「求職者に対して美映さんが本気で関わってきた人なんだから、私も現場で本気で関わるって決めたんだ」と言ってくれたこともあり、サポーターがいてくれる心強さを感じました。
由梨子
友紀さんが担っているカスタマーサクセスは、いわゆる「営業」に近い業務です。
一方、美映さんが関わっているリクルート領域は、現在は美映さんだけが担当している分野になります。これまで他の社員が兼任していた業務を切り出し、より強化するために新たに設けられました。そのため、形を作りながら進めている段階です。
美映
そうですね。私は前半3ヶ月の「たれ」づくりから関わりました。後半3ヶ月はトレーニングとは別に、ENERGIZEの担当の方と週1回の1on1面談を実施してもらいました。
このプロジェクトの目的は、トップパフォーマーになること。ENERGIZE様は「KEIPEのような会社と仕事がしたい」と言ってくださり、「還元したい、貢献したい」という想いで取り組んでくれています。
由梨子
目標達成に向けて、コミットしてくださっているのが伝わりますね。
リクルート領域のトレーニー・松原美映
【この記事を書いた人】
松川 清美|フリーランスライター|NGO広報・編集
インタビュー・取材記事を中心に、企業・団体の想いを伝えるライティングを手がけています。
📝 執筆記事:
「山のようにめぐる世界を目指して」
「ウィズダイバーシティが山梨の企業にもKEIPEにもWin-Winな2つの理由」
「【物流 × 障がい者就労支援】で新たな価値を創造! ロジコネクトのチャレンジ」
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