

COLERE
山梨県立美術館内にあるユニバーサルカフェ&レストラン。スタッフ12名のうち10名が、知的・身体・精神などの障がいを持つ「メンバー」で構成され、メニュー開発から調理、接客、マーケティングまで、障がいの有無にボーダーを引かずに運営されています。
MARLU SOUP
2022年6月に「MARLU SOUP」としてオープンした、「じぶんを大切にする」がコンセプトのお店。2025年9月には「MARLU SOUPとDELI」としてリニューアルし、現在はスープに加えて、旬の野菜などを使ったお惣菜つきのランチも楽しめるお店になりました。
ひとりの意志から生まれてきた事業
KEIPEは、自らを「事業実験コミュニティ」として位置づけています。社会や地域にある課題に気づいた誰かの「やってみたい」という意志を起点に、さまざまな事業を形にしてきました。
―まず、これまでKEIPEでの事業はどのように立ち上がってきたのか、教えていただけますか?
飯室
やっぱり、熱量がある人から立ち上がるというのが、もともとの事業の始まり方だったと思います。社会のどこかに課題が見えて、「これをやってみたい」という想いがある人が立ち上がって、そこから始まっていく。誰かの想いや熱量から、一つひとつ形になってきたんですよね。

飯室も発起人として関わったnouto工場直売所
強い想いを持つ人がいるからこそ、事業は動き出す。けれど、発起人の存在が大きくなりすぎることで生まれる難しさもあります。田澤さんは、広報としてCOLEREへの取材依頼を受けたとき、その難しさを感じたといいます。
田澤
テレビ局からCOLEREのインタビューのオファーをいただいたときに、正直、「誰に語ってもらおう」と迷ったんです。COLEREを語れる人は誰なんだろう、って。
赤池ゆかさんも、MARLU SOUPを立ち上げ、運営してきた立場として、同じ課題を抱えていました。
赤池ゆか
MARLU SOUPを立ち上げて運営してきて、自分とMARLU SOUPがほぼイコールみたいな存在として動いていた時期がありました。そういう時期も必要だったと思うんです。でも、長く続けていくことを考えたり、マンパワーの問題が出てきたりしたときに、私がずっとキープしているだけでは回らないと見えてきたんです。

リニューアル前のMARLU SOUPにて
COLEREの2周年。「何をあげるか」ではなく、「何を伝えるか」
きっかけは、COLEREの2周年イベントでした。発起人が中心に立つのではなく、現場のスタッフから「アイデアがほしい」と声が上がり、事業部の外にいるメンバーも含めて、臨時の運営チームがつくられました。
―COLEREの2周年イベントはどんなふうに始まったんですか?
田澤
もともと現場のスタッフが「アイデアがほしい」と声をかけてくれて、事業部を横断してメンバーが集まったんです。飯室さんも、私も、赤池ゆかさんも。最初のミーティングは、「なんで集まったんだっけ?」みたいな感じで(笑)。
赤池ゆか
「2周年だよね」「去年はノベルティを配ったよね」「じゃあ今年は何をあげる?」という方向に流れかけたんですよ。
周年だから、何かを配る。イベントだから、お客さんを集める。けれど、そこで立ち止まりました。
田澤
「ちょっと待って、それじゃない」となったんです。「あげるものを決める会」ではないよね、と。そもそもCOLEREが何を伝えたいのか、何をしたいのかから、みんなで話すべきだと思いました。
そこから話し合いは、「COLEREは誰に、何を伝えてきたのか」という問いへと移っていきます。その場で赤池ゆかさんが語り始めたのは、COLEREがこれまでどんな姿勢で運営してきたか、という話でした。
赤池ゆか
COLEREは、福祉「だから」来てもらえる場所にはしたくないという考えから、オープン当初からユニバーサルな側面を前面に押し出さずに運営してきました。レストランとしてちゃんと勝負できる場所でありたかったから。でも、2周年というタイミングで改めて問い直したとき、スタッフの80%が障がいのあるメンバーで運営されているという事実を、もっとちゃんと伝えてもいいんじゃないかと思ったんです。それをミーティングの場で話しました。
その言葉が場に広がったとき、田澤さんのなかにも重なる想いがありました。支援学校の子どもたちやその家族を招待して、COLEREという場が持つ希望を届けたい——という構想が、すでにあったのです。
バラバラではなかった。言葉にしたら、同じ場所を見ていた
赤池ゆかさんの言葉は、田澤さんにとって大きな転機になりました。
田澤
それまでは広報の担当として、どこか「現場から声が出てくるのを待つ」ような感覚がありました。でも、赤池ゆかさんが言ってくれたときに、ハッとしたんです。「あ、私もそう思っていた。言っていいんだ」って。
誰かひとりが正解を持っていたわけではありません。それぞれが見えている価値を持ち寄り、言葉にし、重ねていくことで、COLEREが本当に伝えたいことが少しずつ浮かび上がっていきました。
飯室
みんなが、風呂敷を広げて話せたような感覚がありましたよね、あの場は。
立場の違う人たちが集まり、発起人不在のまま意思決定をしていく。そこには、意見の衝突や迷いが起こりそうにも思えます。でも実際にはそんなことはなかったんです。
田澤
思っていることを言語化してみたら、みんなの落とし所が一緒だったんです。それがすごく良くて。「あ、いける」と思いました。他の意思決定も、これでいけるんじゃないかって。
むしろ、話し合うことで見えてきたのは、これまでの企画に対する違和感でもありました。
赤池ゆか
季節に合わせたメニューや販促コンテンツも実施してきたんですが、いつの間にか「売るための企画」に寄っていた部分があったよね、という話にもなりました。そこに違和感があったのは、現場のメンバーも同じだったんです。
誰かひとりの熱量に頼るのではなく、その場所に関わる人たちが、それぞれの想いや違和感を持ち寄る。すると、最初の意志は薄まるどころか、むしろ広がっていく。COLEREの2周年イベントで起きたのは、そんな体験でした。

2周年イベントで配布するものとして「改めて自己紹介する」という目的で制作したコンセプトブック
発起人に頼りきらないために必要なこと
今回の経験は、3人それぞれに異なる手応えを残しました。
赤池ゆかさんにとって、それは「一人で抱えなくていい」と思える経験でした。
赤池ゆか
すごく肩の荷が下りた感じがしました。COLEREでうまくいったのを経験したときに、「これ、MARLU SOUPでもできる」と思えたんです。みんながその場所の価値を言語化して、分かった状態で意思決定できれば、一人に頼らない決定ができるんだと。店長がどうしたいか、私がどうしたいかではなく、その場所自体がどうしたいかを、みんなで感じながら形づくればいいんだと腑に落ちました。
赤池ゆかさんが話していたのは、「その場所がどうなりたがっているか」をみんなで感じ取るということでした。
赤池ゆか
ティール組織(組織をひとつの生命体のように捉え、メンバーの主体性をもとに運営していく考え方)の本に、議論の中でそのサービス自体の席をひとつ作る、というような考え方があったんです。たとえばMARLU SOUPなら、MARLU SOUPという存在の席をつくる。店長がどうしたいか、会社がどうしたいかではなく、そのサービスや場自体がどうありたいのかという視点です。
誰か一人の正しさに引っ張られるのではなく、その場所そのものをひとつの存在として見つめる。COLEREの2周年で起きたことは、そうした意思決定のあり方を、実際に体感する機会でもありました。
田澤さんにとっても、今回の経験は広報という役割を見つめ直す機会になりました。
田澤
私は昨年4月に入社して広報を担当してるんですが、最初は、現場からすると不審者みたいな感じだったと思うんです(笑)。「この人誰?」って。でも、テレビに出た、雑誌に載ったという現場の実感値が出てきたことで、「あ、この人もいる意味があるんだ」となって、仲間感が生まれてきた感覚があります。
現場の中にどっぷり入っているわけではないからこそ、見えるものがある。けれど、外から助言するだけでもない。その場所のことを一緒に考え、感じ、言葉にしていく。田澤さんは今回、広報が事業の価値を引き出す役割にもなれると実感しました。
一方、飯室さんが強く語っていたのは、発起人の孤独や痛みに寄り添うことでした。
飯室
発起人の気持ちは、痛いほどわかるんです。発起人としてやり続けることって、本当にきついんですよ。やりたいことをやっているからいい、というだけではなくて、数字のことも言われるし、世の中にあまりないことをやっているからこその難しさもある。だからこそ、その痛みがわかるから、伴走するというか、「一緒にやるよ」「私もそこにいるよ」という感じを出していけるといいなと思っています。
今まで2年かかっていたものが、もしかしたら半年でチャレンジできるようになるかもしれない。チャレンジするのは、あなただけじゃないよ、という感じをつくれるといいなと思います。孤独になる人への優しさというか、包み込みみたいなものを、これからもっとつくっていけるんじゃないかなって。
発起人の熱量を大切にしながら、その人だけに背負わせない。チャレンジが孤独ではなくなる。それは、KEIPEが目指してきた「いいリーダーが生まれる生態系」にもつながる視点です。
正解ではなく、手応えを持ち帰る
COLEREで得た手応えは、今後、MARLU SOUPをはじめとする他の事業にも広がっていこうとしています。
赤池ゆか
まずMARLU SOUPをはじめ、他の事業部にも展開していきたいと思っています。前提として、「その場所がどうなりたがっているか」という共通認識の土台を、みんなで感じながらつくっていく。それができれば、誰か一人が背負うのではなく、みんなで意思決定権を持ったチームができると思っています。
発起人の想いを消すのではなく、その想いをひとりに閉じ込めない。現場にいる人、少し外側から関わる人、別の事業を見ている人。それぞれが、その場所の価値を感じ取り、言葉にし、形にしていく。KEIPEはまだ試行錯誤の途中ですが、やってみたからこそ、次のステップに進めると思っています。常にいい形に柔軟に進化していける組織でありたいですね。
KEIPEの「やってみ文化」は、こうしてまたひとつ、新しい形に育ちつつあります。
【この記事を書いた人】
松川 清美|フリーランスライター
インタビュー・取材記事を中心に、企業や団体で働く方の想いやストーリーを伝えるライティングを手がけています。対話を通じて、その人らしさや仕事の背景を言葉にすることを大切にしています。
📝 執筆記事:
・ウィズダイバーシティが\ 山梨の企業にもKEIPEにもWin-Win /な2つの理由
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