
もくじ
物流x福祉 出会いと共感が拓いたイノベーション
ー物流業界の人手不足と、就労支援事業所の仕事不足という、2つの課題が結びついたきっかけを教えていただけますか?
侑馬
当時、KEIPEには飲食やEC(※1)といった事業はなく、障がい者の就労支援事業(※2)に注力していました。企業様からは清掃や箱折りといったさまざまな仕事を請け負っていたのですが、ある日、飛び込み営業が得意な社員が物流会社に行き、センター長とお話しする機会をいただいたんです。
※1 EC(Electronic commerce)
インターネット上で行われる物やサービスの取り引きのこと。
KEIPEのEC事業の詳細はこちら
※2 障がい者の就労支援事業
障害者総合支援法に基づく就労系福祉サービスの一つ。
一般企業への就労が困難な障がいのある方を対象に、職場体験等の機会や、就労に必要な訓練の提供、求職活動に関する支援、就職後における職場定着のために必要な相談等の支援を行う事業。「就労継続支援A型」と「就労継続支援B型」の2種類がある。
侑馬
物流は日々の生活を支えるインフラなので安定した仕事をいただける。機械化が進んでいるので作業がシンプル。「これならできるかもしれない!」と考え参入を決めた、というのが正直な話です。その直後にコロナ禍となり、それまでいただいていた仕事は壊滅的な影響を受けたので、物流の仕事をこのときに得られたのは本当に幸運でしたね。
ー物流業界に新たに関わっていく中で、人手不足という課題も見えてきたのでしょうか?
侑馬
そうですね。障がいのある方が物流倉庫で働くことになったのですが、倉庫内は危険も多く、守らなければいけない納期もあるため緊張感があります。最初はトラブルもありましたが、センター長が中心となり、皆で協力して仕事をする環境をつくってくれました。すると、どんどん成果が上がるようになったんです。
それを見た本社役員の方が、「このサービスは全国に展開していないの?どうにかならない?」と全国展開の話を持ちかけてくれたんです。人手不足や人件費高騰で困っている物流会社が多いことを知り、まずは近隣の就労支援事業所につなぐことから始めました。これがプラットフォーマー(※3)としての第一歩でしたね。そこから徐々につながりが広がり、現在のロジコネクトの形に進化していきました。
※3 プラットフォーマー
利用者と提供者をつなぐ基盤を提供する事業者
ーサービス開発や全国展開にあたって、苦労したことや工夫したことはありますか?
健太
実績をつくり信用していただくまでが大変でしたね。僕らができるのはマッチングであって、一緒に現場に入って仕事をするわけではありません。だから、物流企業様と就労支援事業所様双方に、僕らの想いに共感していただかなくてはならない。「社会的にもいいビジネスだね」と多くの方に共感していただけても、実績がないため「やっぱりうちはいいや」と契約につながらず苦労しました。
障がいのある方が現場に入ることで起こる衝突といった目先の課題解決ではなく、その先のビジョンを伝え続ける必要がありました。そのビジョンとは、働く意思のある人を社会のチカラにする世界です。諦めずにこのビジョンに向かって一緒に取り組む中で信用が生まれ、徐々に規模が拡大していきました。
物流と障がい者就労支援を近づけるきめ細やかなサポート
ー物流企業と就労支援事業所、ロジコネクトは具体的に双方にどのようなメリットがあるのでしょうか?
侑馬
物流倉庫はアクセスが悪い場所にあることが多く、働き手が集まりにくいという課題があります。一方、就労支援業界は仕事不足で売り上げが上がらず、倒産するケースもあります。
この課題をつなぎ、地域全体が持続可能な場所になるには、物流企業様には「多様な人が働ける環境づくり」が、そして就労支援事業所様には「企業に寄り添った就労支援」を行う必要があります。ロジコネクトでは、双方が歩み寄るためのサポートを提供しています。
●物流企業様へのサポート
・物流業務の切り出し
・ワーカーの採用・定着
●障がい者就労支援事業所様へのサポート
・倉庫業務の指導
・施設外就労の導入支援
・教育プログラムの提供
導入費用ゼロ 安心のトライアル雇用
侑馬
物流企業様が障がいのある方をいきなり採用するのはハードルが高いので、まずは僕たちが物流企業様や就労支援事業所様と連携し、物流業務を切り出し、マッチングのご提案から始めます。トレーニングとして障がいのある方の実際の働きぶりを見てから、物流企業様に契約の判断をしていただく形を取ることで、採用のミスマッチを最大限減らすことができます。
また、業務委託として一緒に働く中で、自社にマッチするワーカーを紹介料等一切不要で社員として引き抜いていただくことも可能です。ここまでは導入フェーズとして無料で行っています。
ワンストップで多拠点の手続きを簡素化
ー「全国に物流倉庫を5拠点以上を持つ企業のリピート率100%」とホームページにはありますが、リピート率やマッチングの精度を高めるために、どんな工夫をしているのでしょうか?
侑馬
リピート率に関しては、トップダウンで進めてもらうことが重要ですね。センター長や役員の方としっかり話をして、各物流拠点で導入してもらうようにします。ビジョンに共感していただいた上で一緒にやっていくという形ですね。
本社と初回に契約を締結することで、多拠点での煩雑な手続きが不要となる仕組みも提供しています。マッチングから現場作業まで、多拠点をワンストップでサポートできるのも、契約リピート率100%の理由だと思っています。
業務切り出しサポートでマッチング精度と生産性アップ
健太
マッチングに関しては、物流業務の切り出しを工夫しています。企業様にとってはどこから手をつければいいのかわからないことが多いので、一緒に業務内容を確認し、新潟から鹿児島まで倉庫作業に長年取り組んできたノウハウ(※4)を活かして提案しています。
障がいがある方の特性やスキルを理解した上で適材適所の配置が行われるため、生産性アップが実現できます。企業様には自社で抱え込まずに、まずは相談してほしいとお伝えしています。
※4 倉庫作業に長年取り組んできたノウハウ
2019年から始まったKEIPEでの物流企業への施設外就労経験と、ロジコネクトでの60件以上の物流企業と就労支援事業者のマッチングを通じてノウハウを蓄積してきました。
配置指導員がマネジメントコストを大幅削減
ーマッチングを重ねる中で、見えてきた課題はありましたか?
健太
大体共通するのは「認識のギャップ」ですね。物流企業様側は、障がいのある方でも一日仕事をすればすぐに慣れて柔軟に対応できると考えがちですが、就労支援事業所様側はステップを踏んで、マニュアルを作り、時間をかけて構築していく必要があると考えています。この認識の差が大きいことがありますね。
ー物流倉庫での配置指導員の存在に価値を感じている企業さんの声も聞かれますが、この「認識のギャップ」を埋める挑戦から生まれた解決策なのでしょうか?
健太
もともと福祉の就労支援の中に施設外就労(※5)という仕組みがあります。施設外就労に参加する当日の利用者数に対して、算定上必要とされる人数(常勤換算)を配置しなければなりません。就労支援事業所様から配置された指導員が作業指示を出しますので、企業様が直接ワーカーをマネジメントする必要はありません。
※5 施設外就労
利用者と職業指導員がユニットを組み、企業から請け負った作業を行う働き方のこと。
ーなるほど。そうすると新たなワーカーが現場に入ってきても、企業様が毎回作業を教える必要はないんですね!
健太
そうですね。指導員が現場の業務をしっかり理解し、業務習熟度を上げるためのノウハウを提供するといったサポートも行っています。
イノベーションの種をまく 原動力は「諦めない」
ー試行錯誤の連続ですね。印象に残っているエピソードはありますか?
健太
ある物流企業様との契約後、求められるレベルになかなか達することができなかったんです。でも諦めずにあの手この手で改善の挑戦を続けていたら、最終的に担当者様から「松原さんいつ諦めるのかなって思っていました。でも全然諦めないんで安心しました!」という言葉をいただきました。
僕は相手と真摯に向き合い、ファンになってもらうことを心がけています。僕らは物を売っている訳ではなく、物流業界と福祉業界のイノベーションの機会をつくっています。どれだけたくさんその機会をつくれるかを大切に考えているので、例え一つの挑戦で失敗したとしても、もう一度改善のチャンスをいただけるような信頼関係が必要なんですね。
侑馬
こんないい話、初めて聞いたな…笑
ー笑 諦めずに何度も挑戦できるのは、きっと根っこに強い想いがあるからでは、と想像するのですが、いかがでしょう?
健太
そうですね…。ロジコネクトは僕一人でやっているのではなく、企業様、現場の社員、就労支援事業所様など、たくさんの人が関わっています。関わる全ての人を好きになり、「その人たちのことを簡単には諦められない」という気持ちで日々取り組んでいます。
侑馬
一緒に働く人たちの姿や成長を間近で解像度高く見ながら、プラットフォーマーとして活動しています。だからこそ簡単に諦められないんですよね。僕たち自身が諦めずに乗り越えてきたからこそ、関わる方々も「一緒にやりましょう!」という気持ちになってくださるのだと思います。
ロジコネクトの未来
ー今後、ロジコネクトをどんな風に発展させていきたいですか?
健太
これまでは、まず僕自身のファンになっていただくことを目指してきましたが、一人では限界があります。今後はチームメンバーを増やし、ロジコネクトが単なるマッチングではないこと、信頼関係を構築すること、そして手間ひまを惜しまないことの重要性を共有しながら、さらなる全国展開を目指します。営業活動に加え、この想いを広く伝えていくような活動もしていきたいですね。
地域で暮らす人々が協力し合うことで、本来の地域のあり方、企業のあり方が生まれてくると信じています。地域との連携を通じて、地域に眠る可能性を見つけるきっかけを提供していきたいです。
侑馬
ロジコネクトはあくまでも第一歩であり、本当に実現したいのは、障がいのある方だけでなく、より多様な方々が地域で活躍できる可能性に気づく機会をつくることです。そのために、働きたい方と企業様とのマッチング機会を増やしていきたいです。教育機会の提供なども視野に入れていますね。
企業様は今後、採用など様々な課題に直面すると思います。ロボット導入という選択肢もありますが、僕たちは人が中心となって企業活動が行われることを大切にしたいと考えています。
働く環境をどのように整えていくのか、多様な人が活躍するとはどういうことなのか、地域に根ざして共に何かをつくり上げていくとはどういうことなのか。僕たちロジコネクトが、これらの問いに対するヒントを提供できればと思っています。
【この記事を書いた人】
松川 清美|フリーランスライター|NGO広報・編集
インタビュー・取材記事を中心に、企業・団体の想いを伝えるライティングを手がけています。
📝 執筆記事:
「山のようにめぐる世界を目指して」
「ウィズダイバーシティが山梨の企業にもKEIPEにもWin-Winな2つの理由」
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